芦屋市の六麓荘町(ろくろくそうちょう)には、「電柱が1本もない」「コンビニもない」「住むには町内会に50万円」など、さまざまな噂があります。
前回は、六麓荘の「豪邸条例」の中身を市の資料から解説しました(※前回記事へのリンク)。今回はその続編として、よく聞く噂を芦屋市の公開資料などで一つずつ確かめていきます。結論から言うと、「ホント」もあれば「半分ホント」もありました。
噂1:六麓荘には電柱が1本もない → 半分ホント
六麓荘が電柱の少ない街であることは事実です。芦屋市の資料には、六麓荘が開発当初から電線と電話線を地下に埋設してきたと書かれています。市は六麓荘を、昭和初期に「民間」が開発した無電柱化の町と紹介しています。
ところが、同じ市の資料にはこうも書かれています。六麓荘町の大半は無電柱化されているものの、町の一部には今も電柱が立ち並んでいる、と。
そこで動いたのが住民です。市の資料によると、経緯は次のとおりです。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2018年10月 | 六麓荘町町内会が市に無電柱化の要望書を提出 |
| 2019年度 | 無電柱化の勉強会を4回開催 |
| 2020年度 | 電線管理者と事業化に向けて協議 |
| 2021年度 | 地下埋設物の調査と、地上機器の配置検討 |
| 2022年度 | 町内会が主体となって、地上機器の設置場所を土地所有者と調整 |
| 2022年12月 | 市の無電柱化実施計画に、六麓荘地区の約1.46kmを追加 |
無電柱化では、変圧器などを入れた箱(地上機器)を道路沿いのどこかに置く必要があります。この設置場所の確保は、全国的にも無電柱化の大きな壁になっています。六麓荘では、その調整を町内会自らが引き受けたことで事業が動き出しました。2023年11月の市の展示では、六麓荘町の無電柱化を「現在事業を進めている」と紹介しています。
「電柱が1本もない」は言い過ぎですが、「電柱ゼロを目指して住民が動いている街」と言えば正確です。
噂2:電線の地中化は日本初 → 公的資料では確認できず
「六麓荘は日本で初めて電柱を地中化した街」という紹介もよく見かけます。
ただ、今回調べた範囲では、芦屋市の資料に「日本初」という表現は見当たりませんでした。市の説明は、昭和初期に民間によって開発された無電柱化の町、というところまでです。判定は保留とします。
噂3:コンビニもスーパーもない → ホント(そもそも建てられない)
これはルール上、ホントです。六麓荘町の地区計画では、建てられる建物が次のものに限られています。
- 一戸建ての住宅
- 住民の自治活動に使う公民館や集会所
- 派出所や公衆電話所などの公益施設
- これらに付属する建物
コンビニやスーパー、飲食店などの店舗は、このリストに入っていません。つまり「ない」のではなく「建てられない」のです。ただし、地区計画が決まった時点ですでにあった建物は対象外です。
噂4:マンションも3階建てもない → ホント
これもルール上、ホントです。地区計画で建てられる住宅は一戸建てだけなので、マンションは建てられません。
高さも最高10m、軒の高さ7mまでと決まっています。さらに町内会の建築協定では、地下を除いて2階建てまでとされていると報じられています。詳しくは前回の豪邸条例の記事で解説しています。
噂5:道路は住民のもの → 昔はホント、今は市道もある
芦屋市の資料には、六麓荘では開発当初から町内会が組織され、地区内の道路や水路、水路に架かる橋などを共用施設として自主管理してきたと書かれています。
一方で、同じ資料には六麓荘町内の敷地が「市道142号線」に面していると記されています。現在の六麓荘には市道もあり、噂1の無電柱化も、市が道路管理者として進める事業です。住民が街のインフラを自分たちで守ってきた歴史は事実ですが、「道路は全部住民のもの」というわけではなさそうです。
噂6:住むには町内会に50万円 → ホント(物件情報に記載あり)
これは不動産の物件情報で確認できました。三菱地所の住まいリレーに掲載されている六麓荘町の売地情報には、次の費用が記載されています(2026年10月時点)。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 六麓荘町内会 入会賛助金 | 50万円 |
| 町内会費 | 月1,000円 |
| 積立金 | 月500円 |
入会時の50万円は大きく見えますが、毎月の会費は一般的な町内会と大きく変わらない水準です。道路や水路を自主管理してきた歴史を考えると、街の維持費を住民で出し合う仕組みと読むこともできます。なお金額は物件情報の時点のもので、変わる可能性があります。
噂7:信号も自動販売機もない → 公的資料では確認できず
「町内に信号も自動販売機もない」という紹介もあります。
ただ、これを裏付ける公的資料は見つかりませんでした。地区計画の用途制限は建物についてのルールで、自動販売機を禁じる記載はありません。自販機がないとすれば、ルールではなく住民の申し合わせや景観への配慮によるものと考えられます。判定は保留とします。
判定まとめ
| 噂 | 判定 |
|---|---|
| 電柱が1本もない | 半分ホント(大半は地中化済み。残る区間も町内会の要望で無電柱化が進行中) |
| 電線の地中化は日本初 | 公的資料では確認できず |
| コンビニもスーパーもない | ホント(ルールで建てられない) |
| マンションも3階建てもない | ホント(一戸建てのみ、高さ10mまで) |
| 道路は住民のもの | 昔はホント(現在は市道もある) |
| 住むには町内会に50万円 | ホント(物件情報に記載あり) |
| 信号も自販機もない | 公的資料では確認できず |
噂をたどると、六麓荘の特徴は「お金持ちが多い」ことより、住民が自分たちで街のルールとインフラを守ってきたことにあると見えてきます。電柱の地中化、道路の自主管理、町内会の費用、そして今も続く無電柱化の要望まで、すべてがその延長線上にあります。
市の資料には、六麓荘が昭和3年から香港島の高級住宅地を手本に開発されたことも記されています。次回は、六麓荘がどのようにして生まれたのか、その歴史をたどります。
参考資料
- 芦屋市 無電柱化の取り組みについて(2022年11月 建設公営企業常任委員会資料)
- 芦屋市 無電柱化の日 令和5年度報告
- 芦屋市 六麓荘町地区地区計画の概要
- 芦屋市 景観配慮方針(六麓荘町)
- 三菱地所の住まいリレー 六麓荘町の売地情報
- ニューズウィーク日本版
- 幻冬舎ゴールドオンライン
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