芦屋の「豪邸条例」といえば、六麓荘町(ろくろくそうちょう)のイメージが強いかもしれません。ところが報道によると、2007年にこの条例が施行されたのは、六麓荘町と奥池南町(おくいけみなみまち)の2か所でした。
六麓荘のルールについては以前の記事で詳しく解説しました。今回はもう一つの舞台、奥池南町を取り上げます。芦屋市の資料を読み比べてみると、奥池南町のルールは多くの項目で六麓荘より厳しいことがわかりました。
奥池南町はどこにある?
奥池南町は、芦屋市の北部、六甲山系の山の中にある住宅地です。市街地とは芦有(ろうゆう)ドライブウェイと県道奥山精道線でつながっていて、市はこの2本を、北部と南部の市街地を結ぶ唯一のアクセス道路と位置づけています。
大きな特徴は、瀬戸内海国立公園(六甲地域)の中にあることです。もとは1961年(昭和36年)の芦有ドライブウェイ開通をきっかけに開発された別荘地で、1964年(昭和39年)から住宅地として開発が始まりました。その後、別荘ではなく実際に住む人が定着していきます。隣接する奥池町と合わせて「奥池地区」と呼ばれています。
六麓荘と同じく、町内にお店はありません。後で紹介する地区計画で、建てられる建物が一戸建て住宅や集会所、派出所などの公益施設に限られているためです。地区内の道路も、関係のない車が通り抜けできないように整備されています。
六麓荘と同じ日に決まったルール
奥池南町のルールの中心は、芦屋市が定めた「奥池南町地区地区計画」です。決定日は2006年9月26日で、六麓荘町の地区計画とまったく同じ日に決まっています。
きっかけも六麓荘と似ています。奥池南町には企業の保養所もありましたが、経済の低迷で保養所が売却されたり、別の用途に変わったりしました。その結果、敷地の細分化や木の伐採が進み、住環境が損なわれつつあったと市は説明しています。
そこで、それまでの国立公園の規制や自治会の建築協定に加えて、市の地区計画で街並みを守ることになりました。対象は奥池南町の一部、約78.3haで、そのうち約25.7haは開発のときに残すと決めた「保存緑地」です。
六麓荘と奥池南町のルールを比べてみた
両地区の地区計画を並べると、次のようになります。
| 項目 | 六麓荘町 | 奥池南町 |
|---|---|---|
| 場所 | 市街地の北東端、山の手 | 国立公園内、標高約500m |
| 地区計画の決定日 | 2006年9月26日 | 2006年9月26日 |
| 区域の広さ | 約37.7ha | 約78.3ha(うち保存緑地約25.7ha) |
| 敷地の最低面積 | 400㎡ | 500㎡〜1,000㎡(地区による) |
| 建ぺい率 | 30%〜40% | 20%(一部地区の平屋のみ30%) |
| 容積率 | 80% | 40% |
| 高さ | 10m(軒の高さ7m) | 10m(設備・塔屋も含めて測る) |
| 道路からの後退 | 2m以上 | 3m〜5m以上 |
| 屋根の形 | 指定なし | 切妻・寄棟・入母屋の勾配屋根に限る |
| 屋根の色 | けばけばしくない配色 | こげ茶・暗緑色・灰緑色・暗灰色、または自然素材 |
| 緑化率 | 30%〜40% | 40% |
敷地の広さ、建ぺい率、容積率のどれを見ても、奥池南町のほうが厳しい数字です。たとえば容積率40%の場合、1,000㎡の土地に建てられる家の床面積は合計400㎡までです。六麓荘なら同じ土地に800㎡まで建てられます。
奥池南町ならではの3つのルール
1. 屋根の形まで決まっている
六麓荘のルールは屋根の色を「けばけばしくない配色」とするだけですが、奥池南町では形まで指定されています。原則として、切妻(きりづま)、寄棟(よせむね)、入母屋(いりもや)の勾配屋根に限られ、屋根の勾配の範囲も決まっています。平らな屋根の四角い家は、原則として建てられません。
2. 地区によって敷地の最低面積が違う
奥池南町は、住宅地区A・B・Cの3つに分かれています。敷地の最低面積は、地区Bが500㎡、地区Aが700㎡、地区Cが1,000㎡です。地区Cでは、建物を道路からも隣の土地からも5m以上離す必要があります。
3. 高さの測り方が厳しい
高さの上限は六麓荘と同じ10mですが、測り方が違います。奥池南町では自然公園法の考え方にならい、建物が地面に接するいちばん低い位置から測ります。設備や塔屋、水槽も高さに含めます。斜面に建てる場合、六麓荘より実質的に低い建物しか建てられないことになります。
このほか、表札や看板などの屋外広告物の大きさや数、塀やフェンスの材料まで細かく決められています。原則として塀は生垣とし、有刺鉄線やトタン、波板などは使えません。
地価は六麓荘の4分の1以下
ルールは厳しい一方で、地価は大きく異なります。2026年の基準地価では、奥池町の地点が1㎡あたり5.65万円でした。六麓荘町の地点(24万円)の4分の1以下で、芦屋市内の住宅地でもっとも低い水準です(※地価ランキング)。
実際の売り出し価格を見ると、2026年11月時点で奥池南町の土地(893㎡)が7,980万円で売りに出されています。1㎡あたりに直すと約8.9万円です。
市街地から離れていて、町内にお店もない。その代わりに、国立公園の自然に囲まれた広い敷地が手に入る。奥池南町の地価には、そうした街の性格がそのまま表れています。
住んでいる人は六麓荘より多い
意外なことに、住民の数は六麓荘より奥池南町のほうが多くなっています。2025年12月1日時点の住民基本台帳の数字は次のとおりです。
| 町名 | 人口 | 世帯数 |
|---|---|---|
| 奥池南町 | 765人 | 389世帯 |
| 六麓荘町 | 604人 | 276世帯 |
| 奥池町 | 482人 | 236世帯 |
奥池南町の地区計画の区域は六麓荘の約2倍の広さがあり、そのぶん住宅の数も多いと考えられます。
まとめ
- 芦屋の「豪邸条例」は、六麓荘町と奥池南町の2か所で施行された
- 奥池南町の地区計画は、六麓荘と同じ2006年9月26日に決定された
- 敷地の最低面積、建ぺい率、容積率、屋根の形や色など、多くの項目で奥池南町のほうが厳しい
- 地価は六麓荘の4分の1以下で、人口は六麓荘より多い
「日本一の高級住宅街」として注目を集める六麓荘の陰で、国立公園の中にもう一つ、厳しいルールで守られた住宅地があります。芦屋の山の手の街並みは、こうした地区ごとのルールの積み重ねでできているのです。
参考資料
- 芦屋市 奥池南町地区地区計画
- 芦屋市 六麓荘町地区地区計画の概要
- 芦屋市 奥池町地区地区計画
- 芦屋市 都市計画マスタープラン(北部地域)
- 芦屋市 町別人口及び世帯数(令和7年)
- 東急リバブル 芦屋市の公示地価・基準地価一覧
- 三菱地所の住まいリレー 奥池南町の売地情報
- ニューズウィーク日本版
シリーズ「六麓荘を資料で読み解く」
第1回:六麓荘の「豪邸条例」とは? 原文から読み解く日本一厳しい住宅ルール
第2回:六麓荘には電柱も店もない?日本一の高級住宅街の噂を市の資料で検証してみた
第3回:六麓荘はなぜ生まれたのか?「東洋一の健康地」から日本一の高級住宅街への100年
第4回:六麓荘の地価は芦屋で何位?2026年の公示地価・基準地価で見る芦屋の住宅地ランキング
第5回:芦屋の「豪邸条例」は六麓荘だけじゃない。奥池南町のルールは実はもっと厳しかった(この記事)
もし芦屋に家を建てられるなら、住みたいのはどっち?


