芦屋市の山手にある六麓荘町(ろくろくそうちょう)。「日本一の高級住宅街」と呼ばれるこの街には、通称「豪邸条例」と呼ばれる厳しいルールがあることで知られています。
「敷地は400㎡以上」「3階建ては禁止」といった話を耳にしたことがある方も多いでしょう。ところが芦屋市の公開資料を読んでみると、ルールはそれだけではありません。外壁の色の鮮やかさ、門扉の開く向き、塀の高さまで細かく決められています。
しかも六麓荘のルールは、2026年7月に変更されたばかりです。この記事では、市の資料をもとに「豪邸条例」の中身と最新の変更点をわかりやすく整理します。
「豪邸条例」という名前の条例は存在しない
実は「豪邸条例」は正式名称ではありません。報道で使われてきたのは、2007年2月に六麓荘町と奥池南町を対象に施行された「芦屋市地区計画の区域内における建築物の制限に関する条例」の通称です。
この条例は六麓荘専用のものではありません。平成14年に制定された市全体の条例で、南芦屋浜地区や浜風町など、地区計画が定められた市内の複数エリアが対象になっています。
六麓荘の街並みは、実際には性格の違う複数のルールが重なって守られています。
| ルール | 決めている主体 | 性格 |
|---|---|---|
| 風致地区 | 都市計画(風致地区制度) | 自然の風景を守るための都市計画。六麓荘は地区Aが第2種、地区B・Cが第3種 |
| 六麓荘町地区地区計画 | 芦屋市(都市計画) | 2006年9月に決定。敷地・高さ・色・塀などを定める街のルールブック |
| 地区計画条例(いわゆる豪邸条例) | 芦屋市(条例) | 地区計画の内容の一部を条例にし、建築確認で審査されるようにしたもの |
| 六麓荘町建築協定 | 六麓荘町町内会 | 住民同士の約束。近隣説明会や工事時間など、より細かい運用ルール |
地区計画は、そのままだと市への届出と勧告にとどまります。条例に盛り込まれると建築確認の審査対象になり、守らなければ建物そのものが建てられません。「条例」と呼ばれて注目されたのは、この強制力があるからです。
六麓荘のルール一覧:敷地から門扉の向きまで
芦屋市が公開している「六麓荘町地区地区計画」の計画書から、主なルールを抜き出しました。対象は六麓荘町の全域、約37.7haで、地区A・B・Cの3つに分かれています。
| 項目 | ルール |
|---|---|
| 建てられる建物 | 一戸建て住宅と、その付属建物。ほかは自治会の集会所や派出所などの公益施設のみ。マンションや店舗は不可 |
| 敷地の広さ | 400㎡(約121坪)以上。分割でやむを得ない場合も、緩和は1区画だけ360㎡まで |
| 建ぺい率 | 地区Aは30%以下、地区B・Cは40%以下 |
| 容積率 | 80%以下 |
| 高さ | 最高10m、軒の高さ7mまで |
| 建物の位置 | 道路から2m以上、隣地から1.5m以上離す |
| 外壁の色 | 赤・橙系は彩度4以下、黄系は彩度3以下、その他は彩度2以下。天然素材は対象外 |
| 屋根の色 | けばけばしくない配色で、外壁と調和させる |
| 門扉 | 原則として内開き。外開きにするなら、開いても敷地の外にはみ出さないこと |
| 車の出入口 | 道路の角切り部分を出入口にしてはいけない |
| 擁壁 | 高さ1mを超えるものは原則として勾配のある石積み。垂直にするなら後退させ、道路側に植栽 |
| 塀・柵 | 道路側は生垣か見通しのよいフェンス。隣地側は高さ1.8m以下 |
| 緑化率 | 地区Aは敷地の40%以上、地区B・Cは30%以上。屋上緑化や壁面緑化は算入しない |
とくに目を引くのは外壁の色です。「彩度2以下」は、ほとんどグレーに近い落ち着いた色しか使えないという意味です。六麓荘の落ち着いた街並みの統一感は、こうした数値で裏付けられています。
門扉を内開きにするルールも、六麓荘らしい項目です。門を開けたときに道路側へはみ出さないので、ゆったりした道路の景観が保たれます。
なお、敷地面積と用途の制限は、地区計画が決まった時点ですでにあった敷地や建物には適用されません。400㎡未満の古い区画が残っているのはこのためです。
2026年7月、六麓荘のルールが変わった
六麓荘町の地区計画は、2026年7月6日に変更が決定しました。当初の決定は2006年9月、2013年6月の一部変更に続く見直しです。変更点は大きく2つです。
1. 建てられる建物に公益施設が加わった
変更前に建てられたのは、一戸建て住宅とその付属建物だけでした。変更後は、住民の自治活動に使う公民館や集会所、派出所や公衆電話所などの公益施設も認められるようになりました。
2. 地区Cの高さ制限が厳しくなった
大学が立地する地区Cでは、これまで高さ15m・軒高12mまで建てられました。変更後は、新しく建てる住宅は他の地区と同じ高さ10m・軒高7mまでになります。15m・軒高12mの上限が残るのは、変更前から住宅以外の用途で使われている建物に限られます。
市は変更の理由として、地域や大学を取り巻く情勢の変化を挙げています。大学用地に将来住宅が建つ場合でも、六麓荘の他の区域と同じ低い街並みを保つための見直しと読めます。
審議は2025年11月の都市計画審議会での事前説明から始まり、約7か月半かけて決定に至りました。
「17項目」の正体は町内会の建築協定
報道でよく出てくる「17項目のルール」は、市の条例ではなく、六麓荘町町内会が定める「六麓荘町建築協定」の内容として紹介されています。報じられている主な項目は次のとおりです。
- 1区画400㎡以上で、個人専用の一戸建て住宅(別荘を含む)に限る
- 地下を除いて2階建てまで
- 緑地は敷地の4割以上(地区により3割)、緑地10㎡ごとに高木1本と中木2本を植える
- 屋外照明は近隣への光の影響に配慮し、ネオンサインやサーチライト、レーザー光線は禁止
- 工事は原則として日曜・祝日を除く午前8時から午後5時まで
- 建てる前に近隣説明会を開く
地区計画と重なる項目もありますが、照明や工事時間、近隣説明会のように、条例では決められない生活レベルのルールが建築協定の特徴です。行政のルールと住民の約束の二段構えで街並みが守られている点が、六麓荘が他の高級住宅街と一線を画す理由といえます。
まとめ
- 「豪邸条例」は通称で、実際は風致地区・地区計画・条例・町内会の建築協定が重なったもの
- 地区計画では敷地400㎡以上、高さ10m、外壁の彩度、門扉の向き、塀の高さまで決まっている
- 2026年7月の変更で、公益施設が建てられるようになり、大学がある地区Cの高さ制限が厳しくなった
地区計画の目標には、六麓荘が昭和3年から香港島の高級住宅地を手本に開発され、電線や電話線を地下に埋設してきたことも記されています。次回は「六麓荘には電柱がない」「信号もコンビニもない」といった噂を、資料をもとに検証します。
参考資料
- 芦屋市 六麓荘町地区地区計画の概要
- 芦屋市 都市計画審議会資料(六麓荘町地区地区計画の変更)
- 芦屋市議会 第62号議案(地区計画条例の一部改正)
- ニューズウィーク日本版
- 幻冬舎ゴールドオンライン
- 横浜市 地区計画条例の解説
六麓荘の「豪邸条例」、いちばん「そこまで決めるの!?」と思ったルールはどれ?


